眠れない夜が続く。

ふと、カーテンの隙間を覗くと月がこちらを見つめていた。

「満月…」

思わず私はベランダに飛び出た。
静まり返った街。
世界が止まっているかのように見えた。

私だけが、一人だけ、取り残された気がした。

怖くなった私は、慌てて部屋に戻ろうとした。

「海奏」
隣の家のベランダから、私の名前を呼ぶ低い声が聞こえた。
この声が誰なのかは、すぐに分かった。

「な、なんだ…一稀か」
だけど私は、振り返って、気づいてないふりをした。

「なんかすげぇ怯えた顔してたけど、また変な夢でも見た?」

「ううん…月が綺麗だなって思って出てきただけ」