あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。


怖くなって、そうっと背後を確認しようと首を右に向けると。

「きゃあ!」

手の届く距離に、細く長い体をうねらせたヘビが姿を現していた。

私は驚きのあまり尻もちをつき、声も出せなくなった。

だれか。助けて。どうしたらいいの。噛まれるかもしれない。毒を持っているかも。
そんな思いをぐるぐるとめぐらせていた。

すると、誰かにグイッと腕を引かれ、立たされた。
いや、もう既にその時は、誰かなんてわかりきっていたと思う。

「しぃっ!」

カクだ。
カクが自分の口の前に指を立て、私たちはそっとヘビから離れた。
離れたところでふう、とため息をつく。

「…ありがとう」

やっと声が出た。
それに対し、「ん?」ととぼけるように反応するカク。

「あれ、多分アオダイショウの子供だ」

「アオダイショウ?」

「そう。よぐ庭さ出るんだ。まあ、驚かせねぇでいだら大人しぐて毒もねぇがら大丈夫だげんど」

そう聞いて安心した。

同時に、そんな頼り甲斐のあるカクが、私には輝いているように見えた。
元から持つ美しい容姿に加え、焦ることなく助けてくれた、その精神力。

「カク、かっこいいね…」

気が付いた時には口から漏れていた。
慌てて撤回しようとするも、カクの顔は夕焼け色に染まっていて、私はただ視線をそらすことしかできなかった。

「…き、キホぢゃん見づげだがら、アズんとこ行くべ」

そう言ってカクは私の腕を引っ張った。
私はうん、とだけ言ってついて行く。
触れた部分が妙にどくどくと血液の流れを感じる。

私、カクのこと好きなのかも…。

その気持ちは吊り橋効果というものかもしれない。それでも子供だったからか、素直にそう思った。