「どうして来るの?」

無表情のまま、突然彼女が口を開いた。

どうして?
そんなの決まってる。

「う、歌、聞きたいなあって」

嘘をついた。
当たり前だ。そんなに簡単に自分の気持ちを告白出来たら、誰だって恋に苦労はしない。

彼女は、うんともすんとも言わない。
ただ俺を見おろしている。

すぐそばの駅を、一本の電車が通過した。

静かな時間が流れる。

何を話したら良いのか。
何から話したら良いのか。
聞きたいことは沢山あったのに、いざとなると出てこない。

「…お、俺、天野川 翔琉(アマノガワ カケル)っていうねん!」

頭の回らない俺は、咄嗟に自分のことを持ち出していた。

「翔琉…?」

「あ、うん!えっと、君は?」

やっと聞けた。

彼女は少し顔をしかめ、間を置いた後、ゆっくりと話し出した。