「…───大きくなっても ずっと笑っていてね…」


キュッと無意識にブレーキを引く。

あの子の声だ。
二週間ぶりに聞こえてきた、あの優しい歌声。

「…────私の大事な宝物…」



「……ほら…」



まただ。
また『ほら』で終わった。

彼女のいる方に視線を向ける。
初めて彼女の歌を聞いた時と同じように、腕を組んで顔を伏せていた。

スン、と鼻をすする音がする。

「…嫌だ。言いたくないよ…」

そんなことを言うあの子の声は震えていた。

どうして。
どうして泣くんだ。
君の〝ほら〟の先には何があるんだ。


何か、悩んでいることがあるなら…
「なんか悩んでることがあるんやったら…言えよ!?」

足音すら聞こえないこの町に、俺の声だけが響き渡った。
彼女の体がビクッと揺れ、同時に声が漏れていたことに気付く。

「あ、わ、悪い!」

また即座に部屋に戻られることを覚悟しながら彼女を見つめていたが、彼女は無表情で、俺から目を離そうとはしない。