あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。

「…いやだ。何とかして叔父さんに頼んでみよう?海光はここにいたいんでしょう?」

「…うん」

大阪弁を話す海光が、東京で何を言われるかわからない。
それに、私だって。
東京に行くことになったら、どこかで昔の友達にでも会って、この脚を気持ち悪いと言われることになるかもしれない。
いやそもそも、もう私のことなんて…。

ハッと思い出し時計を見ると、十一時を指していた。

「お姉ちゃん?」

慌ててベランダの鍵を開け、外に飛び出た。
こんな雨の中、いるわけないってわかってる。
でも言ってくれたよね?
支えるって。
お願い、支えて……。

…見下ろした街に、彼の姿はない。
今日は塾の終了時刻が遅いのだろうか。
将又(ハタマタ)、昨日私がさっさと帰ったから、怒ってしまったのか。

「翔琉…私を支えてよ…」

先程よりも弱くなった雨が降りかかる縁に手をかけ、伏せた。
いつも家事の時だけ縛る髪。
朝食の調理の時からそのままだった。
そのせいで、首元に雨が降りかかる。
雫が集まって、背中に流れ落ちた。
それが不快で、体をぶるっと揺らす。

私は、長く長く待ち続けた。