「お姉ちゃん、うち、傘とご飯買ってくる」
海光は病院内に備え付けてあるコンビニへ行った。
タクシーを呼ぶお金まで持って来ていないことをわかっていたのだろう。
私はゆっくりとしゃがみ込み、地面に近づく。
落ちてくる私の悲しみの数を手に取ってみた。
冷たかった。
一瞬にして私の手のひらを濡らした。
その途端、あの日の地獄絵図がフラッシュバックする。
あの日、カクの手を離さなかったら、海光は今頃、実の兄と一緒に楽しく暮らせていたかもしれない。
私のせいだ。
何故私は今まで生きてきた?
そうだ、おばあちゃんに生きていてと言われたから。
でもその人はもういない。
だれが私を必要としてくれる?
海光ならきっと必要としてくれる。
でも、海光に必要とされる資格なんて、カクを手離した私にはない。
誰か、私を必要として。
私に生きる理由を与えて。
誰か────。
『ずっと支えるから!』
雨の音に塗れて、真っ直ぐな声が、聞こえた。
「…翔琉」
悲しみの星屑を握りつぶすようにして、立ち上がった。
「お姉ちゃん、傘買ってきたで。ご飯はサンドイッチしかなかったけど」
「海光、帰ろ」
「え?うん。帰ってから食べれへんしな…」
「急いで帰らなきゃ」



