先生は、嫌な顔一つせず。
私の問いに答えてくれた。
「父は僕にとって憧れです。厳格で規律を重んじる性格で、幼少期は怒られた記憶が大半ですが。それでも、時折見せる不器用な優しさをよく覚えています。教師の仕事に誇りを持っている父の背中を見てきたので。必然的に教師になりたいと思っていました。」
「そう、なんですか。」
「雨さんは、将来なりたいものあるんですか?」
「……私は、なにもなくて。夢中になれるものも、やりたい事も、ないんです。」
「まだ高校1年生ですからね。」
「それでも周りの子はあるんです。みっちゃんもトリマーになるのが夢だし。」
「みっちゃん……ああ、いつも一緒にいる子ですね。人それぞれですよ。僕も父の存在がなければ雨さんとそう変わらなかったと思います。」
先生の方を見てみれば。
遠くを眺めていた。
お父さんの事を、思っているのだろうか。
その眼差しは、真っ直ぐだった。
「教師になりたいと言うのは少し間違いかもしれません。本当は教師にこだわっているわけではありません。もし、父が警察官だったら僕は警察官になっていたと思います。要は、父と同じ仕事がしたかったんです。……不純な動機でしょ?」
困ったように笑う先生。



