ちらちらと白い雪が降る一月の半ば、気合いの入ったいくつかの運動部以外はほとんど人のいない放課後に、帰宅部のわたしは先生を探して廊下を歩いていた。気づかないうちに歩調がはやくなっていて、ときどき上靴がキュッと音を鳴らす。

目指すのは、めったに使わない旧校舎の講義室の隣、小さくて埃っぽい準備室。ざわざわとした職員室が苦手で大抵そこにいることは、いつかのホームルームで本人が言っていたからずいぶん前に知ったけれど、ひとりで訪ねたことはあまりない。

むしろ、特に用事を頼まれてもいない今日みたいなときにこの古びた扉をノックするのは初めてだ。


「失礼します。二年四組の南里です。斉藤先生、いらっしゃいますか?」

先生がこの部屋にいることは職員室でさっき確認済みだ。コンコンと軽く音を立てて、一応形だけは問いかける。

緊張で強ばった肩を落ち着けるために大きく息を吸うと、それを吐ききる前に扉の向こうから返事が聞こえてきた。

「はい、いますよ。どうぞ入ってください」

いつものやわらかくて丁寧な声が耳に飛び込んできた瞬間、泣きたくなるくらい心臓が痛んだ。普段どおりの先生だ。わたしだけが焦っている。あたりまえのことを確認しただけで、なんだか少し落ち着いた。

もう後には戻れない。判決を待つ罪人みたいな心地で、そっとドアノブを回す。