大学生の長い長い夏休みがやってきた
わたしは実家にろくに帰省することもなく
ずっと師匠の屋敷に入り浸っている

「…師匠…エアコンの導入を検討しませんか」

いつも心地いい畳が、わたしの熱で蒸れる
寝転がっては起きて寝転がっては起きる

師匠はキッチンのテーブルで
優雅に新聞を読んでいた
ところどころ黄色くなっていて相当古い新聞だ
涼しげな顔をしてわたしに目線が向く

「稲荷さんは若いから暑く感じるのです」

「だーかーらー
そんなこと言う師匠はおいくつなんですか」

「その質問には答えられませんね」

「あーつーいーでーすー」

そういえば、と師匠は呟く

「僕の書斎は大変涼しいですよ」

涼しいという単語に反応して
わたしは起き上がる

「確認せねば」

師匠は優しく笑っている