ばしゃり
九十九邸の庭で水音がする

「師匠なんかこぼしました?」

本が積み上がった書斎で
何かを書きつけていた師匠が顔を上げた

「鯉ですよ」

「鯉?」

「そう、鯉」

「鯉かー」

書斎横の和室で寝転んでいたわたしは
おもむろに立ち上がった

「溺れないでくださいね〜」

「バカにしてるんですか?」

書斎からくすくすと笑い声が聞こえる

縁側のつっかけを履いて庭に出た

広大な庭の奥に池がある
水が澄んで小さな錦鯉が自由に泳いでいた

この間までは濁っていて何も無かったのに

「見事なものでしょう?」

わたしの横に師匠がいつのまにか立っていた