「大丈夫?」


トイレの近くのソファーで宇野くんは待っていてくれた。

目元をハンカチで押さえて、ようやくくしゃみまで治まって一息つけた私は、宇野くんの言葉に頷いてから、彼とは少し離れて座った。


「花粉症って、いつ頃まで症状出るの?」

「私の場合スギ花粉が主だから、5月頃には落ち着くはずだけど」

「俺、その辛さは全然分かんねーや」

「羨ましいな、それ。私、酷い時は夜寝れないもん。鼻が詰まって苦しいから」

「そう言ってたな、図書館で聞いたことある」


宇野くんと他愛ない話をしている。色気もクソもない話だけど。

でも、それがこんなにも嬉しくて幸せな気持ちになるなんて……。

西条さんに悪いや。


「戻ろう?西条さん、宇野くんのこと待ってるよ」

「じゃあ、連絡して」

「え?」

「朝、RINE交換してたじゃん」

「別に連絡しなくても……このまま戻れば良くない?」

「いろはも、川原のところに戻りたいの?あいつのこと気に入った?」


何を言っているんだろう宇野くんは。

どうして私が今日会ったばかりの人と二人きりで過ごすことを望んでいると思うんだろう?

私は、宇野くんに会いに来たのに。

宇野くんが好きだから、ずっと会いたくて、だからここまで会いに来たのに。

どうして、他の人を気に入ったとかそういうことが言えるんだろう?

言葉が出てこなかった。

宇野くんの心ない言葉に胸が痛くて、苦しくて……。

泣きそうになって思わず宇野くんに背中を向けて、浮かんでくる涙を服の袖でそっと拭った。

泣き顔ばかり見られたくない。

呆れられたくない。だけど、私をこんな風に不安定にするのは宇野くんなんだよ。

宇野くんの言葉が、態度が……私に吐いた嘘が、私をこんな風に弱くするんだよ。

宇野くんは全然分かってない。