キミに嘘を吐く日

目が痒くなって開けていられなくて、目元を擦ってしまう。

そんなことをしたら目の周りの柔らかい皮膚が傷つくから止めなさいって母に何度も言われてた。

でも、今この目の痒さは我慢できないよ。


「そんなになるまで気づかないとか、鈍すぎ」

「え?」


不意に聞こえた声が誰のものなのかすぐに分かった。


「行くよ」


そう言って私の手を取ったのが誰なのか、分からないわけない。

目を開けることができない状態で、私はその手に逆らうことをせず、黙ってついていった。


「宇野?」


西条さんの声がすぐ近くで聞こえる。


「悪い、川原と一緒にいてくれる?」


優しい声音が彼女に向けられているのが分かる。


「……分かった。ここで待ってるね」


寂しそうな彼女の声に足を止めた。


「いいよ、宇野くん。私は大丈夫だから、西条さんといてあげて……」


「なに言ってんの。目も開けられないくせに。とにかく行くぞ」


大丈夫なのに。彼女をそんな不安にさせたらダメだよ。

そう思うのに、宇野くんの手を拒めない自分がいる。

嬉しいと思う自分がいる。

川原くんに偉そうなことを言っておいて、私は……。