キミに嘘を吐く日

ペンギン館に入ってからも、川原くんは手を離してくれなかった。

離して欲しいと何度も頼むのに笑って交わされてしまって、結局このまま。

川原くんってどういう人なんだろう。どうして今日初めて出会った全然知らない人間と手を繋ぐことができるのだろう?

私は嫌だ。男子と手を繋ぐことだって慣れていないのに。

しかも水族館で手を繋ぐなんて、あの日を思い出して……宇野くんと手を繋いだことを思い出して辛いのに。


「いろはちゃんさ、下ばっかり見てたらせっかくのペンギン見えないだろ」

「だって、川原くんが手を離してくれないから……」


俯いたまま、ボソッと文句を言った。

だって、可愛いペンギンを見たいという気もちよりも、今こうして好きでもない男子に手を握られてる方が辛くて仕方ないんだもの。


「でも、こうしてたら、宇野がヤキモチ妬いてくれるかもしれないよ」

「なっ!」


なんて事を言うんだろうこの人は。

宇野くんには西条さんという綺麗な彼女がいるのに。


「宇野くんは、大切な子がいるのに他の人を見たり、まして私相手にヤキモチを妬いたりなんてしないよ」


川原くんの無神経な言葉に腹が立った。

宇野くんがちゃんと私に西条さんのことを紹介してくれた。彼女だって。

宇野くんにとって大切な子なんだって、ちゃんと話してくれた。