コーヒーは、嫌いですか?


『まあ、信じてもらえるまで、好きって言い続けるけどね』

「なっ…!」

恥ずかしい台詞をあまりにもサラリと言ってのけるので、私は靴箱に家の鍵を置き損ねた。

『どうしたの?』

大きな音を立てて落ちた鍵を拾い、「吉崎くんが恥ずかしいこと言うから!」と責める。
クスクス笑う吉崎くんの声が楽しげだ。

『まずは、オトモダチとしてデートから始めませんか?』

デートという言葉の衝撃に一瞬固まった心臓が、バクバクと激しく脈打ち始める。

デートするのは、お友達なのかなとか、どっちみち吉崎くんの思い通りなのかなとか、色々思ったけれど。
こんなことになっても全く嫌だと感じていないどころか、吉崎くんの言葉一つに心が乱される。

『知り合いの店に、いいカフェがあるんだ。コーヒーが苦手でも飲めるものたくさんあるよ。今もそこで休憩中なんだけど。』

遠くで静かに流れる音楽は、そのカフェのものらしい。

『週末、ここでデートしよ?』

「え?!」

藍里、びっくりしすぎと言いながら笑う声が優しく聞こえた。

コーヒーみたいに苦いと思ってた彼は、想像よりもずっとずっと甘い人なのかもしれない。


『早く、竜って呼んでね。藍里』

そっと耳元に届いた声に、私はとうとうその場に座り込んでしまった。


そして私は、甘いだけじゃない苦みに、もう夢中になり始めてる。