ディスプレイには『吉崎竜』の文字が光っている。
「…もしもし?」
とりあえず家の中に入って、通話ボタンを押した。
『藍里、おつかれ。家、着いた?』
ちょうど帰ったところだと伝えると、吉崎くんの声は優しくなった。
『今日はお疲れ。おかえり』
その言葉だけで、凝り固まった心がほぐされていくようだった。
電話口からは小さく流れる音楽が、遠くに聞こえている。どこかお店にでもいるのかも知れない。
いつも通りの声。少し変わったのは、私の名前をさん付けしなくなったことだけで、他に意味はないと自分に言い聞かせる。
それを見透かしたように、吉崎くんの声が低くて真剣なものに変わる。
『…。今日、言ったことは、冗談でも嘘でもないから。』
はっきりとした声音が耳元で囁く。
「罰ゲーム…?」
『そんなんじゃない。全部、本気。あんまり信じてなさそうだったから、それだけ言いたかったんだけど。』
電話しといてよかったと呟いて、ふうっと息を吐く声が聞こえる。ため息混じりに少し俯く姿が想像できた。



