頭が真っ白で黙りこくっていると、吉崎くんは見覚えのある意地悪な笑いを浮かべた。
「それに」
悪だくみをするような顔は、いつもこっそり「藍里さん」と呼ぶ時と同じ顔だ。
「山田さんに、藍里と付き合ってるんで、って言っちゃった」
さっき「好きだ」と言った表情とは打って変わって、イタズラっ子のように言う。
けれどその内容は、私にとってかなり過激で。いつのまにか「藍里」と呼ばれていることにも気付かなかった。
「え!困るよ!」
「困るの?」
何で?と言いたげに、吉崎くんは首をかしげた。
いやいや。
そもそも付き合ってないんだから、嘘じゃない。
「私たち、付き合ってない」
吉崎くんは、ちょっと不満そうに口をとがらせた。
さっきから、子供みたいな表情で私を困らせる。
でも、何故か不快だとは思わなかった。



