持っていたカップを取り上げられて、はっとする。
いけない。
良い香りに騙されて、苦い思いをするのはゴメンだ。
カップをポットの脇に置いている吉崎くんを見ながら、いくらか冷静さを取り戻した。
「私で遊ばないで」
「真島藍里さん」
私が言葉を発すると、それを遮るように名前を呼ばれる。
空いた両手が、吉崎くんの大きな手に包まれる。
思いのほかひんやりした手で、力強いのに優しい力だった。
少し冷たい指先の感触で、私は出会ってから初めて彼に触れているという事実を実感した。
その間、目は一度も逸らされずに私だけを見つめていた。
「好きなんだ」
あまりにも真剣な表情で、私は言葉を忘れてしまったように何も言えなかった。



