淹れたてのブラックコーヒーみたいに深い黒色の瞳が、私をとらえていた。
「色々言いたいことあったけど、藍里さんの顔見たら、何も言えなくなっちゃった。」
困ったように笑う顔は、いつもより幼く見えた。
「吉崎くん?」
「竜って呼んで、藍里さん」
急に真剣な顔で言うので、「へ?」と妙な声を上げてしまった。
戸惑う私を見て、吉崎くんはふっとため息のような笑いをもらした。
「…別に、今までも隠してたつもりはないんだけどね」
吉崎くんが更に足を踏み出すので、私はカップを持ったまま後ずさりした。
「イマイチ伝わらないみたいだから、本気でいく」
シンクに当たって、これ以上後ろへは下がれなくなった。
目の前には、ダークブルーのネクタイ。
こんなに背が高かったんだ。
そういえば吉崎くんはブルー系のネクタイをよくしてる気がする。
混乱する頭はあらぬ方向へ思考が飛んでいく。



