夕飯を食べ終わってお風呂に入ろうとした時、玄関から鍵を開ける音がした。

お母さんが帰ってきたんだ。

「おかえりなさい。今日は早いんだね?」

「ただいま。早めに切り上げてきたのよ。それより入学式は?」

「ちゃんと行ったよ。クラスはA組だった」

「そう…」

何よ。自分から聞いたくせにそんな薄っぺらい返事するくらいなら聞かないで。

私に興味があるように話しかけて期待させないで。

今日こそは話してくれるなんて期待持たせないで。

「明日もちゃんと学校行ってね」

「うん…」

私を不良だとでも思ってるの?

学校くらいは行くし。

「私、お風呂入ってくるね。夕飯は冷蔵庫だから」

返事がない。

もういいや。疲れたし。

私は玄関から離れてお風呂に向かった。

どうして私のことを見てくれないの

今までずっとお母さんに思っていたことだった。

見ているようで見ていない。

お母さんも『私』を見てくれない。

お母さんは私を通して誰を見ているの。

そん感情が仮面をかぶった私を生んだ。

『希咲』ではない私を見てる。

誰もがみんなそう。