次の部屋に進めば、ミケはすぐに部屋の真ん中に腰をおろす。
私も、ゆっくりとミケの右側に腰を下ろした。
 
数分、沈黙が続いた。沈黙を破ったのは、ミケだ。
 
「なあ、どうする?」

そんな曖昧な言葉に、私は少し驚いた。
 
でも……無理もないか。
扉のスクリーンに綴られている文字を見て思う。
 
『片方の考えていることを当てないと出られない部屋』
 
そんなことができるのは、超能力をもった人間くらいだ。
 
「……片方、ってことは、俺か梓のどっちかの思ってる事当てればいいんだよな」

こんなの、当てられるわけない。そう思うと、私の口から自然とため息が出た。
 
「梓?」
「え? ああ、ごめん。なに?」
「どっちの思ってる事あてる? 俺か、梓」
「……ああ」
 
私は、少し視線を逸らす。
「どっちでもいいけど……ミケは、私の思ってる事を当てられる自信があるの?」
「あはは、その言葉、そのまんま返す」

ミケの思っている事。笑顔という仮面をつけたミケの思っている事を、私は当てられるのか。そう自分に問いかけると、答えは一瞬で出た。
 
「ごめん、無理」
「だよねー。んじゃ、俺が当てよーっと」
 
数分までの静かさはどこへやら。ミケは、すっかりといつも通りの笑顔で話す。そんなミケを見て、私は少し心がほっとして。変な気分だ。
 
「いつまでこの部屋が続くのか!」
 
そう、ミケがいきなり声をあげた。そんなミケに、私は「え?」と顔をミケに向ける。
「あれ、違った? 絶対今、それ考えてると思ったんだけど」
「……扉、開いてない」
「あちゃー」
 
ミケがそう声をもらしたとき、私は頭の中で思いついてしまった。
私は、静かにミケの名前を呼ぶ。すると、ミケは「なに?」と素っ気なく返し、こちらへと顔を向けた。そんなミケに、私はぐっと顔を近づける。
 
「ミケ、今私の事を考えてるでしょ」

そう言った瞬間、扉の開く音がきこえた。
 
私は「次、行こうか」と言って、立ち上がる。

少し間が空いてから、「おう」と返事をし、私の後ろを歩く足音が耳に届く。
このとき、ミケがどんな顔をしているのか、そんなの私は知らない。


でも、なぜか、私の口元は少しだけ上がっていた。