扉を開ければ、予想通り真っ白な部屋が続いていた。

しかし、今までと違うのは、入って一番に目に入ったものである。

部屋の中央にバスケットボールが一つ、そして右側の壁にバスケットゴール。私はゆっくりと正面にある扉に視線を向けると、扉にはスクリーンがあり、そこには文字が綴られていた。
 
『連続3回シュートを決めないと出られない部屋』
 
どうしてこんなことを。

その答えをだすのは、もう自分の中で諦めた。
きっと、この先もこんなくだらなく、変なお題が出されているのだろう。そう思うと自然とため息がこぼれた。
 
「梓、シュート決められる?」

そうとうミケに、私はバスケットゴールへと視線を向ける。そして、二回首を振り、「無理」と答えた。自分に、一回ならともかく、三回連続シュートなんて無理な事はわかっていた。
 
そんな私を見て、ミケは「だろうなっ」なんて笑った。
そして、屈伸をし始める。床へと腰をおろし、開脚し体を前へと倒す。すると、軽々と手と胸はしっかりと床について。
 
「意外に体柔らかいんだね」
「まーね」と言って、ミケは身軽にジャンプし、「よし!」と元気そうに部屋の真ん中にあるバスケットボールを手に取った。
 
トン、トンと二回ほどその場でボールをつき、流れるようにボールをゴールへと投げた。その姿は、思わず目を引くほど綺麗で。ボールは吸い込まれるようにネットを通り、ボールが床へと落ちた音で我に返った。

「よっしゃ」
「……バスケ、してたの?」
「……んーあんま。けど、ボール系は好きだからさ。あと、運動神経だけは自信あんだ」
 
そう言って、ミケはもう一度ボールを投げる。
 
自分で言う事だけはある。そう思った。きっと誰から見ても、ミケの運動神経は抜群に良いものだ。二度目のシュートも決め、そしてあの柔軟さである。
 
ミケは転がるボールを拾い、最初と同じように二度ほどボールを地面へとつき、そして今度は前へとドリブル。ゴールの真下まであと一歩、というところでミケの体は空中へと。それほど、静かに、軽やかに、ミケはジャンプしたのである。そして、ボールをもったままゴールへと。ボールは、ネットを通り、ミケは軽やかに着地して見せた。ボールが地面へと落ちた音の次にきこえたのは、扉が開く音だった。
 
「どんなもんよ!」

そうニッと笑うミケに、私はミケをじっと見て拍手を送った。

すごい。すごすぎる。
私の頭はそんな単純な感想が過る。
 
こんなことを言ったら、ミケは調子に乗るだろうから絶対に言わないけど。
次に頭に過ったのは、先ほどのミケとの会話である。
 
『……バスケ、してたの?』
『……んーあんま』
 
少し見えたミケの横顔は、口元が上がっていたことしか思い出せない。
 
「梓? どーした?」
「……いや、なんでも。進もう」
 
あんまりしたことがないのに、運動神経だけでここまでできてしまうのだろうか。あんなにも、軽やかに、高く、ジャンプができるものなのだろうか。
 
「おいおい、お礼の一つもないのかよー」
「……ありがとう」
「いえいえ!」
 
そう笑顔を見せるミケに、私は疑心感を抱くことしかできず。そして、心の中で思う。



ミケは何かを隠している、と。



そう思ったとき、私はギュッと拳を握りしめ、ミケから視線を逸らした。