次の部屋に進むと、そこは明らかに今までと全く違った。

その光景に、私もミケも立ち尽くす。
 

真っ白な部屋は変わらない。殺風景で、上に灯りが一つなのも。
ただ違うのは、真っ白な扉が二つあるということ。
そして、二つのドアの真ん中に、文が書かれたスクリーンが張られていた。

 
『二人で一つの部屋を選ばないと出られない部屋』

 
右の扉には『二人での記憶を無くすが同じ場所に出る扉』、左の扉には『二人での記憶は無くさないが離れた場所に出る扉』と書かれていた。
 
「雪、どうする?」
私は少し上向いて、考えるふりをした。

 
正直、一択だと思った。

 
「答えをわかってるのに聞かないで」
そしてミケも、同じ扉を選ぶと、確信していた。
「ははっ」
 
ミケは下を向いて、私の手を取った。
急に手を触れられ、私は思わず顔を上げる。
視界には、下を向いているミケ。
前髪で、目が隠れてしまっている。
 
「……雪、自分が言った約束、覚えてる?」
「……うん」
 
私は自分が言った言葉を思い出す。
 
『この部屋を全部出たら、もう一度会うって』
 
ミケは、ギュッと、手に力を入れた。
 
「正直、守れる自信がない」
 
体中の体温が消えていくような感覚になった。
そんな私の耳に、ミケは言葉を投げ続ける。
 
「けど、会いたい」
 
ミケの言葉が、耳から体へと、血液のように流れていく。
 
「もう一度雪に会いたいって、本気で思う」
「会えるよ」
 
私がそうハッキリ言うと、ミケは少し目を丸くする。
 
「絶対、絶対会えるよ」
「……うん。雪、ごめんな。ほんとにごめん。言いたいこと、いっぱいある。でも、話す勇気もないんだ。だから、伝えられる内に、言うよ。ごめん、本当に。ごめん」
 
何度も「ごめん」を繰り返すミケに、私は「うん」と小さく答えるだけだった。
 
「一番言いたいことはさ、手紙に書いた。覚えてるか?」
「うん」
「……なあ雪、最後にわがまま、一つだけきいて」
「……なに?」
 
ミケは私の目を真っすぐ見て、穏やかに言った。
「手紙に書いたことを、今言って欲しい」
 
別に今じゃなくても。
手紙はいつか届くのに。
 
そう思ったけど、ミケの真っすぐな瞳によって、その言葉は出てこなかった。
 
「……もしかしたら、読めないかもしれないから」
 
そんな言葉に私は、唇をギュッと結ぶ。
そして、ミケの手を強く握り、真っすぐミケの目を見る。


「『ありがとう。また、どこかで』」

 

そう、微笑んで、私は自分が手紙に書いた言葉を口にした。
 
ミケは「サンキュ、俺も、同じ気持ち」と優しく笑う。
少しだけ、瞳に涙が浮かんでいるように見えたのは、きっと気のせいだ。
 
私とミケはゆっくりと手を離し、そっと『二人での記憶は無くさないが離れた場所に出る扉』と書かれた扉の前に立つ。

そして、二人でゆっくりと、扉を開けた。