「雪」
 

ミケは、そっと私の頬に触れる。
部屋の真ん中で、お互いが顔を合わせるように腰を下ろして。
優しく、温かい、ミケの手が私の頬を少し撫でる。
 
「雪」
 
優しいミケの声が、耳から入り、体中を巡る。
 
ゆっくりと、ミケの顔が近づくのを感じた。
少しだけ体が強張るのが、自分でもわかる。
 
そしてそっと、ミケの額と私の額が、触れ合う。
その瞬間、『額を合わせないと出られない部屋』と書かれた扉が開く音がした。
 
もう、離れてもいいはずなのに、ミケは私の頬から手を離さなかった。
 
「……ミケ、ミケ」
「うん、ごめん。もう少し、もう少し、だけ」
「……」
 
怖い。
ミケが、そう言っているような気がした。
 
「……うん」と、私は静かに瞼を閉じる。
 
怖い。私の中の何かが、そう叫ぶ。
 
 
次が、最後の部屋。

 
扉の向こうに何があるのか、全ての扉を開けて、私の中に何が生まれるのだろうか。
答えはすぐそこにあって、もうわかっているような気もするのに、私はまだ……手を伸ばせずにいる。
 


私はギュッと、自分の拳を握った。