「嫌」
「なんで、いいじゃん、別に」
 
ミケはニヤニヤしながら、私に「早くやってよ」と言う。
それに対して、私はずっと「嫌」と答える。
 
『どちらかが猫のものまねをしないと出られない部屋』
 
それが、正面の白い扉のスクリーンに書かれていた文字だ。
 
「別にさ、一言、ニャアって言うだけじゃん?」
「……」
そう言うミケは、心底楽しそうに、ニヤニヤしている。
「ミケがやればいいじゃん」
「俺? 俺さっきおんぶして疲れたし」
 
意味のわからないことを言うミケに、私はため息をついた。
これ以上この会話が続くのは時間の無駄だ。なら、さっさと終わらせよう。

そう思い、私はたった一言、口にした。
 「ニャア」
私がそう言った瞬間、扉の開く音と、ミケの笑い声が部屋に響いた。
 
こうなると思ったから、嫌だったのだ。
「ミケ、早く次」
「はいはいっ」

私はため息をつき、あれ、と気づく。
ハッと、勢いよく顔を上げると、不思議そうに首を傾げるミケ。

「ミ、ミケ」
「なに」
「……なんでも、ない」
「そう?」
 
いつから? 
ミケは、自分でも気づいていないのだろうか。
 
私は頭の中で、ミケとの記憶を巡らせていた。
 
いつから、いつからミケは……仮面を見せなくなった?
 
考えるうちに、私の口元は自然と上がる。
そして、思う。
 




ミケも変わったのだ、と。