『信頼を表さないと出られない部屋』
 

その文字を見た瞬間、私の頭の中にすぐに浮かんだものがあった。
 
「雪、どうする?」
 
そう私の顔を覗き込むミケ。
少し悩んだふりをして、私は自分の口元が上がったのを感じた。そんな私を見て、ミケは少しだけ首を傾げる。
 
私はゆっくりとミケに手を差し出した。
 
「なにこれ?」
 
さらに首を傾げるミケに、私はゆっくりと話す。

自分でも驚くほど、穏やかだった。
 
「信頼をどう表したらわからない。でも、私がすぐに思いついたのは、これしかないから。ミケ、握手を、してくれませんか?」
 
私は、この部屋にきて間もない頃、ミケに言った言葉を思い出した。
 
『だって、無意味な握手って、気持ち悪いだけじゃない』
 
今、思う。
握手の意味なんて、雨のように降ってくるわけじゃない。
握手に意味なんて、最初からない。
 
意味は……自分で見つけるんだ。
 
「私は、ミケと握手がしたい」
 
ミケの目が見開かれる。そして、ミケは少し切なそうに笑って。
 
「よろこんで」
 
そう、私の手を取った。
そして、ミケは優しく、「雪、変わったな」と呟いた。

その言葉に、私は内心、少しだけ驚き、少しだけ……嬉しさが込み上がった。