白い部屋の真ん中に座り、私とミケは上を見上げている。
 
「どっちが先に言う?」
 
ミケはそう、優しい声できく。
私は、目の前のスクリーンに書かれた、『互いが思い出を一つ言わないと出られない部屋』という文字を見て、ミケの方に顔を向けた。
 
「じゃんけん、で決めよう」
 
そう提案すると、ミケは少し驚いたような表情を見せた。
そして、すぐに「うん、いいよ」と答え、「最初はぐー! じゃんけんぽん!」と、お互い手を振り下ろす。
 
結果は、ミケがグー、私がチョキ。
 
「はい、雪から」
 
そう言われ、私は少し視線を逸らし、ゆっくりと話した。
「中学の二年生、くらいかな」
「うんうん」
「たまたま、ほんとに気分でゲームセンターに入ったんだよね」
「雪が? 全然似合わないな」
「うん、私もそう思う。初めて入ったんじゃないかって思うくらいだもん。それで、なんとなく、UFOキャッチャーをやったの。私が好きな猫のストラップがあったから。そしたら、一発で取れたの」
「ふーん」
「……次、ミケの番だよ」
「え? 終わり? 今のが思い出?」
「うん」
 
そうきっぱりと言い張る私に、ミケは怪訝な顔を見せる。
 
「もっとさ、こう、他の人とのやつ、ないの?」
「……」
 
小学校の頃なら、いくつかある。でも、その友人とはもう、連絡も取っていない。そんな相手との思い出を、人に話すのは、あまり気が進まない。
 
「話したくない」
「……あ、そう。んじゃ、俺ね。俺はね、もう一択。これしかないね」
ミケは、満面の笑顔で私と目を合わせ、ハッキリと言った。

「雪と出会えたこと!」

そうミケが言った瞬間、扉が開く音がした。
 
「……あり、がと」
 
果たして、お礼を言うことが正しいのかはわからないけど、自然と出て来た言葉だった。
ミケは嬉しそうに、「どういたしまして」と答えた。