部屋の真ん中に座る。

今までと変わらない、真っ白な部屋。正面の扉には、文字が綴られている。
 

『片方が嘘を明かさないと出られない部屋』
 


「梓、どっちが明す?」
 
そう、明るい声で言うミケ。
文を読んだ瞬間、私は自分が言うことになるだろうと、なんとなく察してしまった。

「……どっちが、いい?」と、ミケに問う。
白々しいな、私。
 
「んー、前は俺が言ったし、今度は梓の番でしょ」
「……わかった」
「梓、嘘なんてついてた?」
「ついてるよ、たくさん。正直、どの嘘言うか、迷う」
「……じゃあ、俺と会って、最初についたやつ」
 
最初……。
私は、すぐに思い出せた。

まさか、これを明かすはめになるとは。
参ったな。
そう思ったが、私は、ミケを真っすぐ見つめる。
 
「梓?」

少し首を傾げるミケに、私は静かに言う。


「私、梓じゃないの」
 

「……え?」


「『梓』は偽名で、私の本当の名前じゃない」
 

前に、ミケが言った言葉が、時々頭の中をちらつかせていた。

 

『梓は、月ってより雪だな』
 
 

「私の本当の名前は、雪(ゆき)。椎名雪」




そう言った瞬間、扉の開く音が聞こえた。