次の部屋には『互いが卵焼きを食べないと出られない部屋』と書かれていた。


その文を読んで、私はこの部屋に卵焼きを持ってくるようにコメ印で書かれていた理由を理解する。
 
「……ミケ、さっさと食べて」
 
見たところフォークや箸は用意されてなさそうだ。
私は、先に自分の手で卵焼きを口へと運ぶ。
 
「えーどうせなら、梓が食べさせてよ」
「……なんで?」
「こうやって、誰かと食べる機会なんて、そうそう無いと思って」
ミケの言葉がどういう意味か、私はよくわらからず首を傾げる。
「……まあ確かに、こんな真っ白な部屋で卵焼きを食べる機会はないかもね」
「……ははっ。うん、でしょ?」

私の答えが合っていたのかは、わからない。

けど、ミケの少し寂しそうに笑ったことから、私は答えは違うのだろうと察する。
しかし、それは追求してはいけない、そう悟った。
 
たぶんミケは譲らないだろう。
両手をズボンのポケットに入れているのがその証拠だ。
 
私はため息をつきながら、ミケに卵焼きを差し出す。
それをミケは、嬉しそうに頬張ると、扉の開く音が聞こえた。
 
「美味しー! 世界一だね」
「……普通の卵焼きなんだけど」
 

そんなことを言った私の口元は、少しだけ……上がっていた気がした。