『卵焼きを作らないと出られない部屋』
 

そう書かれた文の下にはコメ印があり、『出来上がった卵焼きは持ったまま次の部屋へ進んでください』と書かれていた。
 
部屋の真ん中には、台所が用意されていて、卵や砂糖、塩、フライパンなど、必要な道具と具材は全て揃っていた。
 
「……一応聞くけど、ミケって料理できるの?」
「やったことないね。そういう、梓は?」
「一人暮らしだから、それなりに」
そう答えると、ミケは少し嬉しそうに笑い、「じゃあ、任せた」と言って、私の背中を軽く叩いた。
ここでミケに任せて、大惨事になるのは避けたい。
少し面倒だと思いつつ、私は台所に立ち、卵焼きを作り始める。
「味、何か希望ある?」
「全然」
「そ」
私は砂糖を多めに入れ、焼き始めるとミケは「すげーすげー」と横で歓喜の声を上げている。
 
何がすごいのかさっぱりわからないため、私は何か言い返すこともしないまま、焼き上がった卵焼きをまな板の上に乗せ、食べやすい大きさにカットし、白いお皿へと乗せる。
すると、扉の開く音が聞こえ、私はお皿を持って「次に行こう」とミケに言う。

しかし、ミケは目を少しだけ丸くして「すげー卵焼きだ」なんて、嬉しそうに呟いた。
 
「……」普通の卵焼きだと思うんだけど。
 
この卵焼きの何がすごいのか、私にはわからず、ミケより少しだけ前を歩いて次の部屋に進んだ。