扉をくぐれば、また先ほど同じように白い部屋が広がっており、正面にはまた扉が一つ。その扉にはまたスクリーンがあり、文字が綴られていて。

 
『三分間会話をし続けないと出られない部屋』

 
扉の上には『03:00』と、タイマーだと思われるものがあった。
 
「三分間だって、どうする?」
 
ミケがそう言った瞬間、扉の上にあるタイマーが動き出す。しかし、私が何も答えずにいると、タイマーは止まりまた『03:00』に戻された。
 
「……どうやら、本当にずっとノンストップで会話しないといけないみたいだね」

 私は、そう言いながら部屋の真ん中ら辺に腰を下ろす。ミケも「そうみたいだなー」なんて言いながら、隣に座った。
 
「そういやさ、あんたのこと、なんて呼べばいい?」
「……何でもどーぞ」と、私は少し視線を逸らして言った。
「じゃあ、梓で。梓ってさ、ずっとそんな感じなの?」
「そんな感じとは?」
私は首を傾げる。すると、「んー素っ気ない感じ」と私の目を真っすぐ見て言う。
「さあ。私はそうしようと思ってそうしてるわけじゃないから。ただ、おもしろくもないのに笑うのはわからないし、どうして必要もないのに自分の情報をただ軽々しく言うのかがわからないの」
「え、もしかして今、喧嘩うられてる?」
「質問してる。どうして、ミケはおもしろくもないのに笑うの? どうして、素性も知らない私に自分の事を話すの?」
 
そうきくと、ミケはフッと笑って、「そうだなー」なんて言いながら、上を見上げてクスクスと笑っている。
 
何がおもしろいのだろう。そんなミケを見て、私は首を傾げる。そして、ミケは見上げていた顔をこちらに向け、真っすぐ私の目を見て言った。
 
「俺は梓のことすごい魅力のある、おもしろい人だと思うから」
 
そんなミケの言葉に、私はさらに首を傾げた。そんな私を見て、ミケはクスクスと笑う。
 
「人に興味が無いように見せてるくせに、本当はどうして自分は周りと違うのか……いや、どうして周りは自分と違うのか、知りたいんだろう?」
「……何が言いたいの?」
 
ミケは、口元を上げ、フッと笑みを浮かべる。その表情は、初めてミケが私に見せた笑顔とそっくりで。しかし、雰囲気が百八十度違うことだけはわかる。
 
「滑稽だなって。俺、そういう女の子大好き。完璧なように見せかけて、本当は全部が欠陥品。んー、見ているだけでもう楽しめちゃうね」
 
そう満面の笑顔を見せるミケ。そんなミケを、私はキッと睨む。しかし、そんな表情も楽しむように、ミケは目を細めて笑っている。
 
いつもの私なら、こんなことを言われても『ここで何か言い返したところで、何か得るものがある?』そんな自問をして、『無い。なら、何も返さなくていい』と自答して終わりだ。でも、ここで何も返さなかったら、この部屋から出られない上に、また三分間こいつと会話なんて、たまったものじゃない。

 私はグッと拳を握り、真っすぐミケの瞳を見て言った。
 
「……もしかして今、喧嘩をうられてるの?」
 
私がそう言うと、ミケは一瞬目を丸くし、そして声をあげて笑った。
 
「ほんっと、おもしれー。これからよろしく、梓」
 
ミケがそう言った瞬間、扉の開く音がきこえた。
 
一度扉の方に目を向け、ミケの方に視線を映す。ミケは変わらずニコニコと笑みを浮かべていて。





 私は、思った。こいつは嫌いだと。