『写真を最低一枚撮らないと出られない部屋』
 

そう書かれた文が、部屋に入って最初に目に入った。そして、部屋の中央には、見慣れた白いテーブル。ミケとテーブルに寄れば、カメラが一つ。
ミケはカメラに手を取って、逆さまにする。
そして、「残り十枚だとよ」と呟く。
 
「……これ、カメラ?」
「使い捨てだけど」
 ミケがそう呟くと、カシャなんて音がきこえた。そして、扉の開く音も。その音に、私は眉をひそめ、ミケに視線を向ける。すると、ミケはカメラを構えていた。
「……なんで撮ったの?」
「ん? 思い出にと思って」
そう言ってミケは、テーブルに乗っていた一枚の紙を私に差し出した。
 
その紙には『撮った写真は全ての部屋を出た後にお送りします』と書かれている。
 
「……私の間抜けな写真なんていらないんだけど」
「俺は欲しいよ」
ミケは軽々しく言って、適当に部屋の壁やら、床やら撮っている。
「さて、残り二枚になったけど」
「……この殺風景を七枚も撮ったの?」
「いいじゃん、とりあえず二人で撮ろう」
 
……ま、一枚くらいは。
 
そう思い、ミケと顔を寄せる。 

あれ、こういう時、どういう顔をしたらいんだろう?
 
そんなことを思っているうちに、ミケは「はい、ちーず」とシャッター音を鳴らした。
 
「もう特に撮るものないなあ。最低一枚だし、もう出るか」
ミケはそう言って、カメラをテーブルに置いた。

ドアに向かうミケの背中を見て、私はふと思いついた。カメラを手にとり、「ミケ」と呼ぶ。するとミケは予想通り、こちらへと振り返る。
その瞬間、私はシャッター音を鳴らした。


 

「……まいったな」
ミケはそう、切なそうに笑った。