扉を開ければ、相変わらずの真っ白な部屋。
中央には、白い四角いテーブルに、白い椅子が二脚。
ミケと中央へ近づくと、テーブルの上にはB4サイズの両面真っ白な紙と、鉛筆が二本、ケシゴムが二つ。

そして、私とミケはほぼ一緒に、スクリーンへと視線を移す。
 

『相手の似顔絵を描かないと出られない部屋』
 

そんな文を見て、私とミケは視線を合わせる。
「……ちなみに聞くけど、梓って絵心あるの?」
「美術の成績は3以外とったことない」
「ははっ」
「そういうミケは?」
「うーん、わかんない」

「わかんない?」
 
ミケの言葉に、私は首を傾げる。
そんな私に、ミケは目を細めて、口元を上げる。いつもの仮面で、意味深な笑み。そんな笑みを見せながら、ミケは言った。
 
「だって俺、絵描いたことないもん」
 
「……は?」
「絵を見たことはちょっとあるけど」

軽い口調で言うミケに、私の思考はついていけるわけがなく。
ニコニコと、いつもの仮面を見せるミケに、私は息を吐き、肩を落とす。
 

……何聞いても、答えてはくれないか。
 
そう悟り、私は手前の椅子に腰をおろす。ミケも、正面の椅子に座り、ペンを取った。

さて……似顔絵、ねえ。
 

正直、私は絵心というのがないと、自分でも思うほど絵には自信がない。少し悩み、ふとミケの方に視線を向けると、ミケは楽しそうに紙にペンをはしらせていた。少し、絵を覗き見れば、私は思わず眉をひそめる。
 

……まあ、見せ合うわけじゃないし。
 

ミケの絵を見て、少し気持ちが楽になり、私もペンをはしらせる。輪郭を描き、髪、目、鼻、口、と顔のパーツを描く。ミケが書き終わるのを待とうと思い、ペンをテーブルに置こうとしたとき、ピタリと手が止まる。少し目線を上へとあげ、もう一度ペンを握った。
 
ただの、思いつきだった。
 
私は、頭に、ネコの耳を二つ描き加え、ペンをテーブルに置いた。
その瞬間、扉が開く音がきこえ、ミケも描き終わったのだと知る。
 
「進もうか、梓」
「あ、うん」
 
私はすぐに紙を裏にし、立ち上がった。