『片方のネクタイを締めないと出られない部屋』
 

扉のスクリーンに綴られた文字。
そして、部屋の中央には丸い形をした白色のテーブル。
テーブルの上には、赤と紺のストライプ模様のネクタイが一つ置かれていた。

ミケとゆっくり、部屋の中央へと歩く。
そして、ミケはネクタイを手にとった。
 
「梓、つけてあげようか?」
 
なんて、含んだ笑みを見せるミケに、私は顔をしかめる。
 
「……する気ないのに言うの、やめてくんない?」
「ははっ。……じゃあ、よろしくお願いします?」
 
少し首を傾げて、ミケは私にネクタイを差し出す。少し腹が立つ言い方に、ネクタイを取るのをやめようかと思ったが、私は差し出されたネクタイを手にとった。
 
「……あんまり上手くないけど、許してね」
「全然問題なし」
 
私は、高校生の頃を思い出しながら、ゆっくりと手を動かす。
私が高校生の時、制服がネクタイだったことも、この部屋は知ってたのかな。
 
「なんかさ」と、ミケの声は少し明るい。
「なに?」
「新婚、みたいじゃね?」
「……バカ?」
 

そう言って最後、ネクタイを締め終わると、扉の開く音がきこえた。