『片方の髪を三つ編みしないと出られない部屋』
 

そう扉のスクリーンに綴られた文字。
三つ編みできる髪、なんてのは私だけだ。
ミケと顔を合わせ、肩をすくめる。
そして、毎度同じように、部屋の真ん中へと座る。ミケは私の後ろへと回って、優しく私の髪に触れた。
 
「あずさって、髪綺麗なのな」
「……そう?」
「うん、綺麗だよ」
 
そう言って、ミケは私の髪を三束に分ける。
 
「あれ、そう言えば髪ゴムないな。どうすればいいんだ」
「結べ、とは書かれてないし、適当なところで終わりにしていいんじゃない?」
「そっか」と、ミケは軽く呟き、私の髪を優しく編んでいく。
 
……なんだか、変な感じだ。
人に髪を触られるって、こんな心地よかったっけ。
 
ぼーっと、上を見上げる。
扉が開く音がきこえ、できる限りのところまで編んだのかな、なんて思う。
 
「ミケ、扉開いたよ」
「んー」
「……ミケ?」
 
ミケは、ただ、優しく優しく、私の髪を撫で続ける。
 
「どうしたの、ミケ」
「いや……こんな機会、もうないと思ってさ」
 
また、だ。
また……もう二度とできないような、言い方をする。
 

私はそれ以上もう、何も言わなかった。
ミケが満足するまで、と思い、ただ目を瞑って、髪を撫でられていた。