この各部屋それぞれに書かれた、無理に近い難題に、私もミケもだいぶ慣れて来ていた。

でも、それは軽々こなせる、というわけではなく。
 

『互いを赤面させないと出られない部屋』
 

無理難題にも、程度というものがあると思った。
「ぷっ、嫌そうな顔」
そうニヤニヤと、笑うミケ。
「……ミケは余裕そうだね」
「うん、自信あるし」
 
そうスタスタと、部屋の真ん中へ行き、腰をおろす。
そんな自信満々なミケの隣に座るのが、何となく気が進まず、私は少し重い足取りで部屋の真ん中へと歩く。ミケと、いつもより少しだけ間を開けて、腰をおろした。
 
「なんか遠くね?」
「気のせいじゃない」
「……ふーん。じゃあ、俺からいってもいい?」
 
ミケの言葉に、私はとっさに「待って」とミケに手のひらを見せる。
「なに」と首を傾げるミケに、私は視線を逸らす。
 
なぜ、こんなにもミケは自信があるのだろう。
そんな簡単に私を赤面させられる、なんて確信を、どこからもってきているのか。
 
「ほら梓、早くでたいんだろ?」
こんなことを言うミケが、ずるくて私は気に食わない。
「……ど、どうぞ」
「じゃあご遠慮なく」
 
ミケはグッと、私との距離をつめる。
一気に近づいた距離に、私は少し体に力が入った。

「梓」と、ミケは静かに私の名前を呼び、ゆっくりと顔を近づける。少し体をミケから離そうと思い、動こうとする。
しかし、動くとミケの体に当たり、さらに体に緊張がはしった。
 
「梓」
 
気づけば、顔はさっきよりもずっと近づいていて。
ミケの唇が、私の耳に触れるか触れないか、ギリギリのところまで近づいていた。顔と耳に熱が溜まる感覚がし、ミケの吐息も全部、感じ取ってしまう。
 
「梓」 
 
ミケが私の名前を呼ぶ。
小さく、「ミケ」と、声を出す。

すると、扉が開く音が聞こえ、私は少し目を丸くする。
そんな私の耳には、ミケの短いため息と笑いを含んだ言葉がきこえた。
 
「パンツ見えそう」
「……なっ」
 
そんな言葉を言ったミケは、すぐに私から距離をとり、喉を鳴らして笑っている。
 
「何度か、言おうと思ったんだけどさっ」
「ばか」
「ごめんって。ほら、扉開いたし、次いこう」
「あ、うん」
 
って、あれ……?


ミケはいつ、赤面をしたのだろうか?

 

私は首を傾げつつ、正面のミケへと視線を向ける。
すると、ほんの少しだけ、ミケの耳は赤い気がした。