『握手をしないと出られない部屋』
 

そう書かれている扉に、私は顔を歪ませる。チラリと、隣のミケを見れば、そんな私とは逆に
、満面の笑みを浮かべていた。

「……あんた、楽しそうだね」
「まーね。それよりほら、さっさと終わらせよう。ほら」
 
そう言って、ミケは右手を前にだす。私は、そんな右手をじっと見る。そんな私に首を傾げ、「どうしたの?」と聞くミケ。
 
「……はあ、仕方ない」と呟けば、ミケは「仕方ない?」と首を傾げる。
「だって、無意味な握手って、気持ち悪いだけじゃない」
 
私がきっぱりとそう言うと、ミケは目をまん丸にして。
そして、「んー」と考えるように少し視線を上へと向ける。視線を私に戻し、「じゃあ」と優しい笑みを浮かべた。

「これからよろしく」
「は?」
 
「握手の意味だよ。無意味な握手が嫌なんだろう? なら、意味をもたせようと思って。こんな部屋がいくつ続くかはわからないけど、少しの間、一緒なんだし」
 
ミケは、優しく、含んだ笑みを見せる。
その笑みに、私の中で生まれたのは、疑心だ。
作り笑い、というのはどこか違った。何か意味があるような笑みだからだ。
何かを隠すために笑っている。けど、雰囲気は優しすぎるもので。

……私には、関係ない。
 
私はゆっくりと差し出された右手を、右手で握り返した。そんな私を見て、ミケは満足げな笑みを浮かべた。