これはまた、難題だ。
 

私は、扉のスクリーンに綴られた文字を見て、そう思った。
 


『どちらかが泣かないと出られない部屋』
 


チラリと、ミケを見る。するとミケは、少し困ったように、肩をすくめる。
「とりあえず、真ん中いくか」
ミケの言葉に「うん」と返事をし、ゆっくりと部屋の真ん中へと行く。そして、腰をおろして、上を見上げた。
 
……この部屋は、時々意地悪だ。
 
どちらか、なんて言い方。
誰だって、泣いているところは見られたくないだろう。

なのに、そんな言い方、どうにかしてでも……自分が泣かないよう、相手を泣かせようと思ってしまう。
 
でも、いつもの笑顔の仮面をみせるミケが、泣くのを私は正直想像できない。ミケもそうだろう。最後に泣いたのを思い出してみるが、中々思い出せない。
 
……人は、どういう時に泣くのだろうか。
 
そう考えたとき、泣きそうになったときのことを思い出す。
すぐに思い出したのは、ミケに優しく頭を撫でてもらったときだった。
 
もしかしたら、ミケも……。

そう思ったが、いきなり頭を撫でるのもどうだろうか。
頭をひねらしていると、先ほどのミケの震えていた手を思い出した。
 
ミケの方に顔を向けると、ミケもずっと上を向いている。
何を、考えているのだろう。
 
「ミケ、どうしたの?」
「んー? どうやって、梓を泣かそうかなって」
「……随分、正直だね」
「ははっ」
 
そう仮面を見せるミケは、少し変だ。どう変かは、言葉にはできない。けど、どこかおかしい。少しだけ……不安そうに、見える。
 
突っ込んでも、どうせかわされるだけ。
そんなことは、なんとなくわかっていた。
でも、あのとき、頭を撫でてもらったとき、私は……どうしようもなく、嬉しくて嬉しくて。

確かに心が軽くなるのを感じた。
 


このまま、終わってたまるか。
もらってばっかりでなんかじゃ、終われない。