気まずい中、次の部屋へと進む。
部屋に入って、最初に目に入ったのは、部屋の中央に置かれた、白い四角いテーブルと、白い椅子。

その奥には、今までとは変わらない扉。
しかし、扉にスクリーンはなかった。
 

二人で、ゆっくりと真ん中に進む。
テーブルの上には、便箋数枚と、封筒が二つ。

そして、今までからは考えられないような物が一つ。
 
「なんだこれ、手紙?」
 
ミケはそう首を傾げながら、数行書かれた一枚の便箋を手にとる。便箋に書かれた文字を、ミケは声に出して読んだ。

 
今までの25部屋、楽しめていただけたでしょうか?

 
最初の文に、私は思わず顔をしかめる。
この部屋を用意した人は、楽しめると思って用意したのだろうか。

だとしたら、とんだ変人だ。

 

残りもあと25部屋となりました。

 

「……あと半分もあるのか」
そんなミケの言葉に、私は「確かに」と返す。
 
お二方の仲も、だいぶ深くなったのではないでしょうか。
もう少し一緒にいたい、なんて思ったりもするようになったのでは? しかし、残り25部屋を通れば、二人は別れなければなりません。別れ方は、お二人の意思によってまた変わりますが、この部屋に終わりがくることは変わりません。


別れ方は意思によって変わる?
そんな言葉に、少し引っかかったが、ミケの続ける言葉に耳を傾ける。


25部屋を通った中で、やはりお互い、言えないことがいくつかあったでしょう。本当の思いを、言えないこともあったでしょう。
そこで、この部屋、『手紙を書かないと出られない部屋』です。どうでしょう?


得意げなその言葉に、私は顔をしかめる。
 

お互いへの思いを、言えない想いを、この手紙で伝えてはどうでしょう? 書かれた手紙は、封に入れて、置いといてください。お二方が最後の部屋を出ていつとは断言できませんが、必ずお届けします。では、最後まで楽しんでいただけたら幸いです。



文はそこで終わっているらしく、ミケは紙を二つに折る。
「ってことらしいけど、どうする?」
「……書こうよ」
「ま、それしかないよな」
私とミケは、お互い椅子に座り、テーブルの中央にあるペンと便箋を手にとる。
 
……さて、何を書こうか。
 
『お互いへの思いを、言えない想いを、この手紙で伝えてはどうでしょう?』
手紙に書かれていた言葉を思い出す。
 
……言えない、か。
 
ちらっと、ミケの方を見ると、もう書き終わって便箋を封に入れているところだった。
「え、ミケ、もう書き終わったの?」
「おう、この部屋を出た後に、梓に伝えたいことはこれだけだと思って」
「部屋を出た後に……」
 
そう考えると、私も思い浮かんだ言葉は一つだった。

私は、二言だけ便箋の真ん中に綴り、二つ折りにする。
そして、封に入れ、閉じる。その瞬間、扉が開く音がし、私とミケは立ち上がって、次の部屋へと進む。
 
「なんて書いた?」
 
そんなミケの質問に、私は「秘密」と口元を上げて返す。
「言うと思った」なんて、肩をすくめるミケ。
 

……あ、もう、気まずくない。
ほんと、不思議な部屋だ。
 

前の部屋でのことなんて、もう忘れてしまっていた。