『互いが二分間黙らないと出られない部屋』
 


そう書かれた文字を見て、私とミケは目を合わせる。

視線を扉へと向けると、扉の上には以前と同じようにタイマーがつけてあって。
タイマーはすでに動き出し始めていた。
 
トントンと、ミケは人差し指で私の肩を叩く。体をミケに向ければ、ミケは人差し指を部屋の中央へと向ける。
 
『真ん中で座ろう』と、言っているような気がし、私は頷く。
部屋の真ん中に、私とミケは腰を下ろす。
 
「……」
「……」
 
お互い無言が続く。
 
上を向いたり、下を向いたり、グッと体を伸ばしてみたり。そんなことして、時間をつぶす。そして、ふと、ミケの方を見ると、ミケと目が合った。
 
ミケは、真っすぐと、私を見つめていた。
 
そんなミケに、私は左に首を傾げる。ミケは、私を見て、穏やかな笑顔を見せた。その笑顔に、私は少し目を丸くする。

そんな私に、ミケはゆっくりと、手を伸ばす。
そっと、私の頬に触れる。
 
腕一本分の距離。
 
それが、今までの、ずっとこんな部屋での、私とミケの座っている時の距離。この距離が崩れることは、ないと思っていた。だけど、今、ミケは、肩と肩が触れるくらいの距離にいる。
 
ミ、ケ?
 
そう言葉を発しようと思ったが、私達が黙っている理由を思い出す。

開きかけた口に、ミケの親指が触れる。
柔らかく、熱い指に、私の体は少しびくつく。
 
ミケと、真っすぐ見つめ合う。
ミケの親指が、ゆっくりと、優しく、私の唇をなぞる。
ふと、私の脳内に、ミケの言葉が過る。


『どうする? このあと、『キスしないと出られない部屋』とかでてきたら』
 

ミケは、私にキスをしようとしているのだろうか。
 

そんな考えが、頭を過る。
ふっと、ミケは優しい笑みを見せる。
その笑みに、自分の顔が緩むのを感じた。
そんな私の顔を見て、ミケは少し驚いたような顔を見せる。

そして、ゆっくりと、ミケの顔が近づく。
 
近づくにつれて、ミケは少しずつ目を細めていく。

ここで……私が、目を閉じたら、どうなるのだろう。
ここで、私が声を発したらどうなるのだろう。
 
どうなるか、私は一つだけ、確信できる答えがあった。

私達の関係が変わる。

それだけは、確信できる。今までのような、関係ではいられないだろう。
 
触れるか、触れないか、そのくらいまでの距離。
 
ミケ。
 
そう止めようとした瞬間、扉の開く音がきこえた。
その音に、ミケは目を閉じ、そっと離れていく。その瞬間、微かにきこえたミケの言葉。
 
その言葉に、私は目を見開く。
少しだけ震えていた唇を、ギュッと閉じる。



 『ごめん』



消えてしまいそうなほど、まるで泣いてしまいそうな、小さな声。
 

ミケが、どうして、そんな言葉を言ったのか。どんな思いを込めて、言ったのか。私の頭の中で、何度も言葉が繰り返され、思考を巡らせた。