『背中を合わせながら立ち上がらないと出られない部屋』
 

そんな文を読んで、私は眉をひそめる。
そして、そんな私とは対極に、ミケは「あーこれ知ってるーなんていうんだっけー」なんて、明るい声だ。
 
「……ミケ、さっさと終わらせよ」
「はいはい」
 
私とミケは、部屋の真ん中へと行き、腰を下ろす。
ピタリと背中を合わせ、それを確認し、頷き合う。そして、「せーの」というミケのかけ声でゆっくりと立ち上がる。少しフラフラとしたが、扉が開く音がきこえ、胸をなで下ろした。
 
チラリと、ミケを見るとなんとも嬉しそうな表情をしていた。
 
「……なんで嬉しそうなの?」
「え?」
「ミケ、嬉しそうに見える。なにがそんなに嬉しいの?」
 
私がそう聞くと、ミケは少し驚いたように目を見開く。
そんなミケを見て、私は聞いたことを後悔した。
嬉しい理由なんて、一つじゃないか。この部屋を出られて嬉しいだけでしょ。
 
「ごめん、忘れて」と言おうと思い、口を開いた時、ミケの言葉が耳に届く。
「こんな経験、できると思ってなかったから」
「え……?」
「こんな変な部屋にきて、こんなことを女の子とできるなんて、思わなかったんだ」
 
そう言うミケに、私はさらに疑問が浮かぶ。
どうして……どうして、もう二度とできないかのように言うの。
 
「また……ここを出たら、やればいいじゃん」
 
私の言葉に、ミケは少し目を丸くし、ふっと笑みを見せた。
 
「どうしたの、梓。ここ出ても、俺と会いたいの? 最初の頃は、ここを出ても他人として変わりないって、言ってたじゃん。そんな他人の俺と、こんなことしたいわけ?」
「別に、相手が私だなんて言ってない」
「ははっ、たしかにっ。……そうだなあ、出れたら、ね。やれたら、やりたいな」
 
そう、仮面を見せるミケ。

そんなミケに、これ以上聞いても無駄だと思い、私は肩をすくめる。
 


「もういいよ。進もう」と私が言えば、ミケは満足げに「おう」と頷いた。