『嫌いなものを言わないと出られない部屋』
そう書かれた扉。私とミケは顔を合わせ、頷き、部屋の真ん中に腰を下ろす。
「嫌いなものねー」と、ミケは言いながら上を向く。
「また梓は、嫌いなものなんてないーって言うの?」
「あるよ、嫌いなもの」
私がそうはっきりと答えると、ミケは「……へ?」と見事な間抜け面。
「好きなものはないのに、嫌いなものはあんの?」
ミケは、嫌みたらしい笑みを浮かべる。そんなミケに、私は頷いてみせた。
「あ、でも、嫌いなものってこの変な部屋にきてからできたの。だから、前はなかったよ」
私がそう言うと、ミケは口元をひくつかせ、「あのさ」と少し低い声を出す。
「なんとなく想像つくけど、一応聞く。嫌いなものって?」
「ミケ」
そう即答すると、項垂れるように片手で顔を覆い、大きくため息をついた。
そして「まじか」なんてブツブツと呟いている。
指と指の間からミケの瞳が見え、ふと目が合う。
「……普通、逆じゃない? なんで好きになんないの?」
「自分が好かれるようなことをしてから言ってくれない?」
「ははっ、まーいいや」と、ミケは顔を上げて苦笑いをこぼす。
「そういう、ミケは? 嫌いなもの、早く言ってよ」
ミケは、ふっと、笑みを浮かべる。
目を細め、口元をあげ、何かを隠すための笑顔、意味深な仮面だ。
「人間」
ミケがそう言った瞬間、扉の開く音が部屋に響いた。
「え……?」
「俺はさ、人間が嫌いなんだ」
そう言いながら、ミケはゆっくりと立ち上がる。
「女の子が、好きなのに?」
「嫌いも好きのうち、ってやつ? 好きだけど嫌い、嫌いだけど好き。そんな感じ?」
不敵な笑顔の仮面をつけながら、ミケはそう言った。そんな笑みに、私はなぜか安心して。
「ミケらしいね」なんて言葉をミケへと言っていた。
ミケは少し目を丸くし、「だろっ?」と、相変わらずの仮面を見せた。