相変わらずの真っ白な部屋の中心に、今までと同じように腰を下ろす。私の左側にミケが座っていて、正面の扉に綴られている文字を見て、目を合わせた。
 


『相手の良いところを3つ言わないと出られない部屋』
 


私とミケは、顔を合わせる。
 
「一個ずつ、交互に言おうか」とミケが言い、私は頷く。

「んじゃ俺から。梓の良いところなーうーん、はっきり物事を言うところ」
「……それは良いところなの?」
「良いところだよ。ほら、次は梓の番」
そう促され、私は少し考える。
ミケの良いところ、良いところ……。
私はミケの顔をじっと見て、ある部分を綺麗だと、率直に思った。

「えっと、耳?」

私がそう言うと、ミケは顔を歪ませ「え?」と短く声を出した。
「……あのさ、梓、それ以外にないわけ? 最初に出て来たのがそれ? もっとさ、内面的な方で褒めてくれても良くない?」
「ミケの内面で褒めるところなんてある?」
そう首を傾げると、ミケのお得意の笑顔が少し崩れる。口元を上げたままひくつかせるミケ。
「ミケの耳は、すごい綺麗だと思うから言ったんだけど」
「……耳って人で違う?」
「正直、人の耳なんて特別見ないし、違うとは断言できない。でも、私の中でだけだけと、ミケの耳はすごい綺麗だと思ったの」
 
「……ふーん?」と、ミケは視線を逸らす。
そして、顔を隠すように頬杖をついて、反対側に顔を向ける。そんなミケに首を傾げるが、少し赤くなっているミケの耳に、私は目を丸くした。
 
「……次、ミケの番だよ」
「……目」
「え?」
「真っすぐな目は、梓の良いところだと思う」
「……ごめん全然わかない」
「ぷっ、だろうな」
 
どういう意味なのか聞こうと思ったが、いつもの仮面を見せるミケが、素直に答えてくれるわけがなく。
 
「次、梓の番」
「じゃあ、運動神経。ミケの運動神経は良いところだよ」
「おっ、普通のがきた」
「最後、ミケの番だよ」
 
そう言うと、ミケは「うーん」と上を向く。
そして、私の方を向いて、そっと意味深な笑みを浮かべる。
 
「同時に言おう」
「……は?」
「だから、同時に言うんだよ。ほら、早く考えて」
「……はあ、わかった」
 
私はそう言って、口元に指を当て、考えるふりをした。
 
三つ目は、本当はもう決まっていた。
これしか思いつかなかった。

私はミケに「いいよ」と、合図を出す。
 
ミケは「んじゃ、せーの」とかけ声を出す。
そして、驚いたことに私とミケの言葉は、丸々同じだった。
 
「嘘が下手なところ」
 
そう口にしたとき、扉が開く音がきこえる。
そして、私とミケは目を合わせ、目をまん丸にさせる。
少し間が空いて、ミケはクスクスと笑った。
 
「次、進もうか」
「あ、うん」
 

私の少し前を歩くミケの後ろで、私の口元は少し上がっていた。