今までと同じように、私とミケは部屋の中央で腰を下ろす。


しかし、私とミケの間には、少し不穏な空気が流れていた。
お互い、何を言ったらいいのかわからなかった。
 私は、チラリと正面の扉を見る。
 


『互いが願いを言わないと出られない部屋』
 


その文を見て、私は精一杯考えた。今の私の願いを。
 
「……梓はさ」
 
私の願い、か……。
 
「梓は、どうしたい?」
 
そんなミケの言葉にハッとし、顔をミケの方へと向ける。

「このいくつ続くかもわからない部屋で、俺とどうしたい?」
ミケの質問に、私は少し下を向く。そして、すぐに視線をあげて答えた。
「別に、ミケとどうしたいとかない」
「ははっ、そう言うと思ったー」
いつもと同じ笑顔を見せるミケに、私は少し心の中で安心した。
「ぶっちゃけさ、俺、願いないんだよ」
「……随分、私みたいなこと言うんだね」
私は自分の『好きなものがない』という言葉を思い出して、そう言った。
その言葉に、ミケはクスクスと笑う。
「うん、俺もそう思う。でも、ないんだよね」
「それは、」
どうして、と聞こうとしたが、言う前に答えはすぐ自分の頭の中で出てしまった。
 
……願い、それがない理由で思いついたのはただ一つ。
もう、願いが叶っているから。
 
「梓、これからどうしたい?」
 
私の心の中を見通すように、ミケはもう一度そう聞いた。
そんなミケに、私は静かに言葉を口にする。
 
「……わからない」
 
私はゆっくりと、言葉を続ける。
 
「正直、ミケには聞きたいことがたくさんある。だけど、その答えをミケは答えてくれないのはわかってる。……答えても、どうしようもないから」
 
きっと、ミケもそうだろう。ミケだって、私に聞きたいことがあるはずだ。
 
「答えを知りたい。でも、そのためにこれからどうしていけばいいのかが、私にはわからない」
 
私がここまではっきり言うと、ミケはいつもの仮面を見せる。
 
「簡単だよ」
 
そう言って、そっと私に手を差し出した。
 
「この部屋を出れば良い」

「え……?」
 
「俺もさ、梓に聞きたいこと、いっぱいあるんだ。でも、聞かない理由は梓と同じ。だからさ……出よう、この部屋を。出たとき、たくさん聞けば良い。その時に、答えが見える場合もあると思う」
 
「……その結論とこの手の関連性は?」
 
「協力しませんか、の意味。一緒にこれから頑張ろうよ、梓。今、俺の願いが出たよ。梓と一緒にこの部屋を出たい」
 
そう真っすぐ、私の目を見て言うミケ。オレンジ色の瞳が、私の瞳を捕まえる。
 
「梓、俺の事、知りたいんだろ?」
 
そのミケの言葉に、私は目を見開く。そして、指の先まで血液が通るのを感じた。
 
……ミケは今、私の事を知りたいと思っているのだろうか。
私は、ミケのことを知りたいと思っているのだろうか。
 
先ほどまで、心の中に何も生まれなかった。なのに、この数分で、この部屋にきて、生まれてしまうものなのだろうか。
 
何とも不思議な部屋だ。

まるで、私達のことがお見通しだとでも言うように、文字が綴られている。
 
「……うん、知りたい。ミケを知りたい。だから私は願うよ。ミケと一緒にこの部屋をでたい」
 
そう言った瞬間、扉が開く音がきこえた。
そして、私の心の中で『ミケの事を知りたい』と思った瞬間、また新しいものが生まれた。







私の心に、優しく、静かに……ノックがする音が。