気がついたら、私はそこにいた。



真っ白な部屋に、真っ白な扉が一つ。
窓一つなく、上に灯りが一つ。
目線を下に向ければ、真っ白なワンピースを着ていて。

広がる真っ白に、辺りを見渡す。
そして、そんな真っ白の空間に一点の、オレンジ。
 
そのオレンジは、真っ白な空間に馴染むくらいの少し茶色に寄ったオレンジ色で。
それが、髪色だと気づくのに、少し時間を要した。
オレンジ色の髪から、視線をゆっくり下へと移す。
 
そこには、女の子のように可愛らしい瞳に、薄笑いを浮かべ、真っ白なシャツに黒色のズボンを履いている男性が座っていた。
 
両手を腰より少し後ろにつき、そちらへと体重を乗せながら、「ねえ」と、イメージよりも少し低い声に体がびくつく。そして、男性はそんな私を見て、クスリと笑い、片手を上げ、人差し指をたてる。その指に首を傾げると、指は九十度に曲げられた。指の先へと視線を移せば、真っ白なドア。そのドアはテレビ画面のようなものがつけられていて。そして、そこには文字が映されていた。

『名前を言わないと出られない部屋』

そう映されている画面を見て、私はもう一度、男性へと視線を映す。すると、男性はにんまりと笑って。

「俺は、三宅陽(みやけ よう)」
 
 そう笑顔で言った。
三宅陽と名乗る男性は、なんとも掴みにくく。屈託のないその笑顔に、私は不信感でいっぱいだった。しかし、真っすぐ私を見る、髪色と同じ瞳から逸らす事ができなくて。ゆっくりと、少し乾いた唇を浮かせる。 
 
そして、視線を少しだけ逸らして。

 「私は、椎名梓(しいな あずさ)」


私がそう言った瞬間、扉の開く音がきこえた。