「…昴の事は呼び捨てするくせに…」
ねえ、と蓮兄が自分の方にあたしの身体を向かせた。
「…それはっ…、」
あたしが口を開きかけた瞬間、リビングに携帯の着信音が鳴り響いた。
「…俺だ」
蓮兄があたしから少し離れて電話に出た。
“もしもし、蓮くん?”
微かに漏れた声。
ハッとあたしは顔を上げた。
その瞬間、なぜかあたしを振り返った蓮兄と目が合う。
―女の人の声。
「…藍、」
蓮兄のその声を聞き、あたしは現実に引き戻される。
ガタンッ
テーブルに身体をぶつけた事すら気付かずに、あたしはリビングを飛び出して階段を駆け登った。
「―…っ」
ドアを閉め、ズルズルとその場に座り込み耳を塞いだ。
「…ばか…」
蓮兄ではなく、あたしが。
「ダメ…、ダメ」
―恋なんてしてはいけない。
“藍”と蓮兄が呼んだその人は、蓮兄の恋人なのだから。
そして何より。
あたしは、
蓮兄の妹なんだから…

