月と星


一瞬、心臓が飛び跳ねた。

玄関のドアが開き、誰かが帰ってきた気配。


・・蓮兄だ。


あたしはとっさに寝たふりをした。

ガラッとリビングのドアが開く音。


人の気配。


そして、彼の香水の香り。



「・・百合、」

蓮兄の甘く低い声に胸が熱くなる。

なぜか涙が出そうで耐えた。


「・・寝てるの?」

すぐ側に蓮兄の気配を感じ取る。

風邪引くだろ、と呟いて蓮兄は離れていった。

・・と、思った。

思ったんだけど。


あたしの身体の上に、暖かい物が被せられた。

ふわっと、蓮兄の香りが強くなる。


「・・、」

だめだ。

「百合、」

涙が零れた。


「寝たふり?」

蓮兄の言葉に、仕方なく頷く。

「・・じゃあ目開ければ」

恐る恐る目を開く。

「なんで泣いてるの?」

蓮兄があたしの腕を掴み身体を起こさせる。

距離の近さに眩暈がした。

「あくび」

一言答えるので精一杯。