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「…おはよ」
まだ重たい目を擦りながらリビングに入った。
「百合、擦んな」
昴の声が飛んでくる。
「ふぁ~い…」
アクビをしながら生返事をした。
トーストをかじりながら、昴が顔をしかめる。
「だらしねーな~…つか、お前課題やってんの?」
あたしはソファーに腰掛けながらテレビをつける。
「当たり前ー。昴こそやってるの?」
「当たり前じゃん。俺まじめだもん」
どうだか、と心の中で悪態をついた。
なんとなくワイドショーをやっている番組に回して、ぼーっと眺めた。
トン、トン、トン
不意に聞こえた音にビクッとする。
あたしの耳は、この音とらえるのが上手だ。
軽快に階段を降りる、その足音。
背筋が自然と伸びる。
「おはよ」
甘い声に、体が強張る。
「…蓮兄、おはよ」
テレビを見ながら、平静を装って小さな声で呟いた。
「あ、蓮もトースト食うー?」
昴の脳天気な声。
「や、いい。朝は無理」
ドサッ、と蓮兄があたしの隣りに座ってきた。
必死に画面に集中する。
心臓が騒がしい。
「百合」
不意に名前を呼ばれた。
「な、なに?」
蓮兄がジッと見つめてくる。
「…チャンネル。変えてよ」
「あ…、うん」

