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カチッ
カチッ
カチッ

教室の時計の音と担任の声がやけに耳に響く。

さっきからずっと、苦しそうな蓮兄の表情が頭を掠めっぱなしだ。


トントン

不意に後ろから肩を叩かれた。

「…ゆーり。どしたの?」

薫が心配そうな顔をしている。

「えっなんで??」

小声で聞き返す。

「今日やけに静かじゃん?」

薫は長い睫毛と大きな瞳がほんとに綺麗。

「そう?いつも通りだよ」

「そっかぁ…ね、HR抜けて買い物行かない?」

「ごめん、今日蓮兄が風邪ひいててさ・・だからこの授業終わったらもう帰るつもりなんだよね」

あたしは手を合わせてゴメン、とつけたした。

「えっ、蓮様風邪なんだ?おっけおっけ!」


蓮様。

そう、この高校で蓮兄は女子からそう呼ばれている。
もちろん昴も。

二人ともその整った容姿で皆から絶大な支持を得ている。

当の本人達は、そんな事おかまいなしだけど。


その時、カーディガンのポケットの中の携帯が振動して着信を知らせた。

取り出して見た瞬間にドキっとする。



―ディスプレイには、“蓮兄”の文字。


こんな事でいちいちドキドキする自分が嫌。


…あきらめたんだから。



あたしの恋は、もう終わったの。