夢の中で、もがいていた。


どんどん沈んでいく身体。



助けて

誰か、あたしを助けて





―……り、ゆり…?







「…百合!!!」




ハッと目を覚ます。


汗で濡れた枕と、髪。


「…蓮(レン)、兄」



心配そうに眉をひそめて、蓮兄があたしを覗き込んでいた。



「百合、大丈夫?」


蓮兄の細長い綺麗な指が、あたしの前髪に触れる。


「ごめん…起こした?」


あたしの部屋の隣りは、蓮兄の部屋。

夢を見てあたしが唸っていたせいで、蓮兄を起こしたのだろう。


「大丈夫だから、寝て?」

蓮兄はゆっくり首を振った。

「蓮兄…ほんとに大丈夫、」

ほんとに大丈夫だから。

そう言おうとして、蓮兄に唇を指で塞がれた。


「ん~!!」

ジタバタしたあたしを困った様に見下ろして、蓮兄はベッドの淵に腰掛ける。

「百合がこんな状態でほっとける訳ないじゃん。側にいるから、黙って寝てな?」


蓮兄が首を傾け覗き込む。

茶色い髪が、サラッと揺れた。


「…はい」

蓮兄の色素の薄い、ライトブラウンの瞳。

細目でその瞳を見ているだけで、吸い込まれそうであたしは目を閉じた。



―…いい子。




蓮兄の声を聞きながら、あたしは眠りに落ちた。