第2話 魅力溢れる人間とは

2017年9月30日土曜日の真っ昼間のことである。
大きな雨粒の音で目が覚めた。そのせいか朝から気分が乗らない。

あれ、いつもだっけ。

とにかく、何もする気にならない。
今一番ハマってるPk4のゲーム、B03というソフトでさえプレイしようと思わなかった。テレビを付けて、椅子に座ってコントローラーを持ってホーム画面に入るというこの一連の流れがとてつもなく面倒なのだ。

いつになく丸みを帯びている髪の毛を掻きながらなにをしようかと当ても無くiPonee6sを付ける。
ふと目に入ったのはskypaという通話アプリだった。

「最近女の子と話してないし、癒しを求めて旅に出ますかね」

意味も無く声に出してみる。

skypaはIDさえ知っていれば誰とでも通話を繋ぐことが出来ることから、通称Skypaチャンヌーwという掲示板が建てられた。
最近では発足された当初ほどの賑わいは無くなってしまった。

なんにせよ女の子と話す機会が消滅してしまった僕はここに頼らざるをえないのだ。

skypaちゃんヌーwと書かれた項目をタップすると、四角で囲まれたSkypaIDと自己紹介文がずらりと並んだ。
女の子の囲い線は赤、男は青、性別不明は黒で区別されている。

青と黒は無視して赤だけに注目する。

『美香って呼んでください。イケボさん限定です。声好きじゃなかったら切るかも』

なんつー自己中な。リアル友達いなそ。

とは思ったりするが、ここの住人にとっては声が顔なのだ。基本的に社会不適合者か非リア充の方々が集う場所なので、顔を見せ合うなどという自殺行為は誰もしない。

そのくせこの威張り様なのだ。
僕はこいつらが好きじゃない。

自分の顔は中の上くらいだと思う。なんてったって小6から高校生まての間で本命チョコを逃したことは無いのだからね。

だから僕はここにいるやつに見下されるのが我慢ならない。顔を見せると面白いように手のひらを返す所も嫌いだ。

さて、次だ次。

『アマギフくれたら見せる、話そ』

これで誰か来ると思ってんのか?

『メンヘラです。構ってください』

メンヘラ(心の病気とは名前ばかりのかまってちゃん)は無理です。

『話そ~』

お。今までで一番ましだ。でもたった一言しか書いてないしなー、年齢も分からないし……まあでも声かけるだけかけてみるか。

IDをコピーしてSkypaのアプリを開く。
ID入力画面でペーストを行いその子とのメッセージ画面に飛ぶ。
最初に目に付いたのはアイコンの可愛さだった。ほとんど金髪と呼べる髪色に、自室の窓に肘をついて顔を覗かせる女の子。イメージは抜群だった。

もと : Skypaちゃんヌーwから来ました~よければ話しませんか?17男です

一瞬だけ送信するのを躊躇ったが、早くしないと他の男に取られる可能性が高まるので勢いに任せてタップした。アイコンと共にもとと書かれた名前が浮かび上がる。少しのラグが発生した後、その横に先程入力したメッセージが表示された。

Skypaの女の子は掲示板に投稿すると数秒としないうちに何十人もの飢えた男共から連絡が来る。
姫に群がる下民の様だ。

僕もその一人と考えると納得がいかないが、僕は彼らと違って顔がある。君らとは違うのさ。

そんなことを考えているうちに返信が来た。

小雪 : こんにちわ~

選ばれたのはこの僕でした!

一人でニヤつきながらすかさず文字を打つ。

もと : 話せますか?

向こうも直ぐに打ち込んだようだ。
相手が入力中の場合、画面下に連続波が表れる。まだ送信はしていないが、ちゃんと返信をしようとしているということだ。

小雪 : うん!

よし。あわよくば胸でも見せてもらおう。
Skypaちゃんヌーwの付き合いなんて数回切りだしね。

電話の絵文字が書かれた場所をタップし、スピーカーをオンにする。

接続中の文字が消えたその刹那、彼女との時間が動き出す。

00.01

通話時間のカウントが始まった。

「あ、もしもし」



ーーーーーーーーーーーーーーー




「それがめっちゃいい声してたんだよ!」

「ええ~誰に似てるとかないの?」

下でスポーツ系男子たちがバスケをするのを眺めながら、僕と酒井(さかい)はSkypaの女の子の話で盛り上がっていた。

「それがさー!東〇奈〇の声にそっくりなんだよ!」

「まじ!?慧(さとる)くんよー、それはズルすぎるって」

零は茶色がかった髪を左右に振りながらオーバーなリアクションをとった。

「ちょ、声がでかいわ!」

「なんだ酒井、でかい声出して」

小さい体ながらもラグビー部のエースとして活躍している原西が、すぐさま反応を示した。

「よー原西!それがさ~、慧のやつ」

「おい、言うなって」

「まあいいじゃねーか、こいつが一昨日の昼にtwitteeでゲームの仲間募集したらめちゃくちゃ可愛い声の女の子が降臨したんだってよ!」

「まじか!今すぐ聞きたいけど、もう集合の時間だから後で詳しく話聞かせろよ!」

一応ゲーム関連の話として進めてくれるようだ。
その気遣いには感心するが、ネットでの話をネットをやらない人間にされたくない。
幸い原西はそこそこのネット民なので、ゲームというジャンルで通せば変な目で見られずに済む。

これが掲示板で見つけた女の子ですなんて言ったら俺の立場が無い。

ネット女子と関係を持つというのはそれほどまでに冷ややかな目で見られるのだ。

体育館を出ると既にクラスの人たちは整列をして待っていた。バスケをしていた男子もいつの間にか並んでいる。

「遅いー、雨降ってんの見えないのー?」

女子の中で特にビッチと呼ばれる連中が文句を飛ばしてきた。

「ちょっとくらいいいじゃん、ほら前向いて」

その集団の中でも群を抜いて可愛い子が周りを諭した。

いつもは自分たちが遅いくせに、どの口が喋ってんだと周りの男子が声を揃える。

この学校の女子は自我が強すぎる。それが周りとの協調性を保つことが出来るものなら文句は無い。いや、寧ろそれは公の場で自分を引き出せない僕にとっては羨ましいものでもある。

しかし、彼女らは違う。
周りを考えず一方的に自らを押し付けるワガママなのだ。

内面も悪ければ外見も悪い。
スカートを何重にも折りたたみ、秋の寒さなど屁でもないと素足を曝け出している。
その化粧は妖怪かと突っ込めばM−1でも優勝を取れそうだ。
行き過ぎた化粧はその人の品質を下げてしまうということを教えてあげたい。これでは本末転倒である。

他校からの評判が悪いなんてことは言わずも知れる。

本当に不愉快だ。